アルコールの人体への影響

 アルコール分解の流れ
アルコールの人体への影響を調べてみた。まず、体内に入ったアルコールは30パーセント胃で、残りは小腸で吸収される。吸収速度は,小腸>胃>大腸の順に速く,口腔がもっとも遅いとされ,通常経口摂取されたエタノールは口腔や食道粘膜からごくわずかに吸収された後,胃(約30%)および小腸(約70%)で大部分が1〜2時問以内に吸収され,大腸での吸収は実質的にはないとされている。吸収されたアルコールは血管を通って肝臓に送られる。そこでアルコールはアルコール脱水素酵素(ADH)により酸化されて有害物質アセトアルデヒトになる。このアセトアルデヒドが人体に対し有毒であり、悪酔いの原因となる。アルコールが脳に達したり、アセトアルデヒドが体中に回ると脳細胞内のニュウロンの膜を溶かし、情報を複雑にする。この状態を「酔い」という。また、脳細胞内での脱水状態による頭痛、嘔吐神経を刺激することによる吐き気、発汗、顔面紅潮などの症状があらわれる。アルコール飲料の種類・濃度や飲酒量・速度に加え,胃内容排出時間,胃内食物の有無(空腹時には吸収が速い)など,胃での条件が大きく関与する。特に胃切除術を受けた患者では,エタノールは速やかに小腸から吸収されるため,胃切除前に比べてアルコール血中濃度の上昇が速く,ピーク血中濃度も高くなる。この急唆なアルコール濃度の上昇は,より短期問の少ない飲酒量で中枢のアルコール耐性と依存性を進行させ,アルコール依存症の危険因子であると指摘されている。吸収されたアルコールは体内にほぼ均等に分布し,その大部分(90%以上)が肝臓で代謝されるが,一部(2〜10%)は呼気,尿,発汗により体外に排泄される. 次に肝臓内のアセトアルデヒドはアセトアルデヒド脱水素酵素(ADLH)により酸化され酢酸になる。これが、さらに分解されて最終的には、水と二酸化炭素になり吐息や尿とともに体外に排出される。体内でアルコールを処理できる能力は60から70キログラムの成人でビール一本に3時間、日本酒一合に3時間、ウイスキー一杯で3時間である。


肝臓への負担

 1 アルコールによって脂肪肝がおこる。
脂肪肝というのは、皮下にたまって肥満の原因となる中性脂肪が肝臓にたまり、肝臓がはれておおきくなる状態のことである。その脂肪の由来は食物中の脂肪が肝細胞の中でアルコールにより脂肪の合成が高まったためといわれる。症状はほとんどないのが普通であるが、程度がひどくなると全身がだるい、疲れやすい、食欲がでない、腹がはるなどの症状がでる。

 2 アルコールが肝細胞に障害を与えたり、破壊する。
酒を飲むたびに肝細胞は障害をうける。しかし、肝細胞は再生能力が高いので少々飲みすぎたぐらいでは支障はない。けれども、そういった肝臓の能力にも限界があるから、それを超えるような大量の飲酒を続ければ、当然肝細胞が障害をうけ、壊死におちいり炎症もおこる。これがアルコール性肝炎である。

 3 肝硬変
毎日のように大酒を飲み、肝細胞の破壊と修復をくりかえしていると、肝臓の中に繊維の多い組織が増えて硬くなる。これが、肝繊維症であり、この状態からアルコール性肝炎になることがしばしばある。更に進むと肝硬変になり、肝臓の組織は完全に改築され、肝細胞の集団である肝実質が輪状になり、繊維がすっかりかこまれてしまう。肝硬変までいくともう元の健康な状態にはもどらないが、そうなるまでなら、一般にアルコール性肝障害は直り易い。

 4 血圧
アルコールは血圧を一時的に下げるが、長い間飲むと、血圧をあげ高血圧症の下地となる。「アルコール1日30mlあたり血圧は2,3倍あがる。」といわれる。アルコールによる血圧上昇は血管の収縮反応を高めるほか、心臓の鼓動をはやめる。交感神経の活動、内臓からのマグネシウム、カルシウムの流出が原因といわれる。また、アルコールとともにとるつまみも高血圧の原因といわれる。

 まとめ
アルコールの吸収・代謝機構,生体への影響および薬物との相互作用について概説した。アルコール代謝の主体は肝であるが,アルコールによる障害は代謝過程で生じる脂質・糖質・アミノ酸や核酸代謝障害などの可逆的な障害から,アセトアルデヒドや酸化ストレスの増加が加わったほぼ全身に及ぶ臓器障害まで,多彩なスペクトラムを呈することが多い。アルコール依存症に対してのみならず,日常診療での患者指導においてもアルコール代謝に関する知識は不可欠と考え。.



脳への影響

 はじめに
長期大量飲酒者あるいはアルコール依存症者(以下,合わせてアルコール症者と略す)に高頻度に種々の脳神経障害がみられることは古くからよく知られている。しかしながら,実際の臨床場面では患者が診察時に酩酊状態にあったり,離脱症状を呈していたりすると,十分な診察がなされず,これらの脳神経疾患を見逃し,症状が重篤さらには致命的になってから気付かれている例もまま見受けられる。アルコール症者の脳神経障害は非常に高頻度に出現し,この中には緊急な対応を要するものも含まれており,アルコール症者の診察にあたっては,神経学的診察はどのような場合にあってもまず必須のものである。
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 アルコール症者によくみられる神経症状
アルコール依存症患者にみられる神経症状と頻度については,眼球運動系では,階段状の追跡眼球運動異常(41.1%)が多く,反射系では膝蓋腱反射の低下(27.9%),アキレス腱反射低下(36.9%)が多く認められている.また運動系では,姿勢振戦(23.8%)のほか,下肢優位の協調運動障害(15.6%),歩行障害(13.1%)が多く、感覚系では、特に下肢優位に対称性にみられる表在感覚障害(38.5%)および深部感覚障害(31.1%)が多い。

 アルコール症者にみられる脳神経疾患
アルコール症者にみられる脳神経障害の発症機序については,@アルコールあるいはその代謝産物の神経・筋への直接の作用(毒性)によるもの,A大量飲酒に付随してみられる栄養障害,ビタミン欠乏,電解質異常によるもの,Bアルコール症者に合併する他の臓器障害の影響によるもの,Cその他(頭部外傷)が考えられる。しかし,この中でもアルコール自体の神経への直接の毒性による,ニ次的な栄養障害などを介したものかはしばしば議論となるところで,いずれの機序によるものか明確にできないものも多い。また,実際の診療では,さらに離脱症候群や臓器障害の影響によるものも重複してみられることが多く,神経症状の評価,診断はさらに難しい問題となっている。現状では上記のごとく明確な分類をすることが困難な面もある。

 アルコール症者にみられる脳萎縮
脳萎縮の機序については,アルコール自体の神経毒性によるものか栄養障害によるものか明らかではない。アルコール症者の脳萎縮については,可逆性があること,すなわち断酒後徐々に脳萎縮が改善されることが認められている。

 アルコール性ニューロパチー
四肢の遠位部に左右対称性に認められ,多くの患者で下肢優位である。感覚鈍麻よりも異常感覚や柊痛が症状の前景に出ることが多いとされており,“両足のジンジンした痛み"を初発症状にすることが多い。感覚障害に比べ頻度は低いが,両下肢の筋力低下も認めることがある。一方,アルコール症者には高頻度に糖尿病の合併がみられ,実際にはアルコール性か糖尿病性かの鑑別が難しいケースもある。

 アルコール性小脳変性症
小脳症状は,酩酊時や離脱期に一過性の症状としてみられるものが多く,臨床病理学的に確認されたアルコール性小脳変性症の報告例はわが国では数少ない.アルコール性小脳変性症の症状は,失調性歩行を特徴とする。画像上では,小脳前上部の小脳溝の拡大がみられることが多い。

 中心性橋髄鞘融解(centralPontinemyelinolysis)
以前は剖検でしか確認されなかったが,最近の画像診断技術の進歩とともに,CTやMRIで診断される例も増えてきている。病理学的には,橋中心部に脱髄巣を認める。症状は病巣の広がりによって異なるが意識障害をみることが多く,死亡例も多い。橋以外の視床,基底核にも同様の病変を認めることがあり,橋外髄鞘融解(extrapontinemye1ino1ysis)と呼んでいる.病因は,低Na血症の急激な補正によると考えられており,1日に12mEq以上のNaの急速な補正は危険とされる。

 Marchiafava-Bignami病
MarchiafavaとBignamiが赤ワインを飲んで脳梁変性を起こしたイタリア人の剖検例を報告したことに始まる疾患である.以前は赤ワインがこの疾患の原因とも考えられたが,最近では各国でワイン以外の酒類での報告がされており,病因についても,アルコールあるいはその代謝産物による神経毒性によるか,栄養障害性のものか不明である。病理像は,脳梁の左右対称性の境界明瞭な脱髄巣であるが,この他にも前交連や視交叉などに脱髄巣をみることが多い。

 ペラグラ脳症
ニコチン酸欠乏によって起こる.精神症状,消化器症状,皮膚症状がみられるが,精神症状は,神経症様症状,抑うつ,せん妄,幻覚妄想など多彩である.病理学的には,大脳皮質大型錐体細胞や橋核神経細胞などにcentral chromatolysisがみられる。緊急にニコチン酸を投与することが重要で,放置すれば致命的となる。

 脳血管障害
大量飲酒は,脳梗塞,脳出血,くも膜下出血のいずれも増加させることが,数多くの疫学調査で明らかになっている。大量飲酒が動脈硬化を促進し,高血圧をもたらすことが主な原因と考えられる。

 頭部外傷
アルコール症者には酩酊しての事故や転倒によりしばしば頭部外傷を認める。

 まとめ
アルコール症者にはさまざまな脳神経障害を認める。この中には緊急な対応を要するものが多く,大量飲酒者の診察にあたっては,まずこうした脳神経障害の疑いを持ち神経学的診察を行うことが肝要である。治療は,アルコールの摂取を止め,欠乏するビタミンなどの補充を行い栄養状態を改善させること,さらには合併する他の臓器障害の治療を行うことが基本となる。

ここで、アルコールの利点も述べてみたい。
 アルコールは体内の善玉コレステロール「HDLコレステロール」を増やす働きがある。そのことによって血液凝固系に作用して、血液が血管の中でつまりにくくするために心筋梗塞や狭心症に効果がある。しかし、アセトアルデヒドは自律神経を興奮させ、交感神経を刺激する。そのことにより交感神経は脈をあげ血圧をあげてしまうので注意が必要。

文献
1)石井裕正1アルコール内科学臓器障害と代謝異常の臨床.医学書院,東京,1981
2)YokoyamaA,TakagiT,IshiiH,WadaN,MaruyamaK,TakagiS,HayashidaM:Gas-trectomyenhancesyu1nerabi1itytothedeye1opmentofa1coho1ism.A1coho112:213-216.1995
3)原田勝二:アルデヒド脱水素酵素(ALDH).日本臨床55(特別号):35-39.1997

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