キーワードと説明

メラノーマ;

悪性黒色腫、ほくろの癌。メラニン色素産生細胞が癌になったもので、早期に転移し、たいへん悪性です。

経皮ペプチド免疫療法;

皮膚表面からペプチドを塗布して、病気を治す方法です。経皮とは皮膚の表面からいろいろなものが通過して、体内に浸透することです。

がんペプチド;ペプチドとはアミノ酸が数個結合したものです。ガン細胞は細胞表面に目印となるペプチドを発現します。

角層剥離;皮膚の最外層を角層といいます。角層を剥離することにより、皮膚表面からペプチドが簡単に浸透します。

細胞障害性T細胞(略してCTL);がん細胞を殺す細胞です。

ランゲルハンス細胞;樹状細胞の一種で、皮膚にたくさん存在しています。強力なCTL誘導細胞です。

主要組織適合抗原;HLAともいいます。免疫反応に関係した目印となるタンパク質で、いろいろな細胞の表面に発現しています。個人個人により違います。

1.経皮免疫療法とは?

 私どもは経皮免疫療法を開発・特許取得し,悪性黒色腫をふくむがん治療およびウイルス感染・原虫(マラリアなど)感染のワクチンとして利用しています。経皮とは、注射針を使わずに、皮膚の表面から様々な物質を体内に浸透させることです。
 経皮免疫療法では、がん細胞ペプチドやウイルスなどの微生物ペプチドを皮膚に貼り付けることにより、皮膚のランゲルハンス細胞にこの情報をつたえ,がん細胞やウイルス・原虫(たとえばマラリア原虫)感染細胞を障害する細胞を誘導します。こうして,自己の免疫力を高めることにより,がん治療や感染対策ワクチンをおこなうのです。

 悪性黒色腫の治療としての経皮免疫療法では、次の1-6を行います。
1. まず5cm四方の正方形のプラスチック板に手術用アロンアルファーを薄く 塗ります。
2. 上腕,大腿の内側部,計4ヶ所の皮膚表面にこの板を密着します。
 3-5分後,プラスチック板をゆっくり皮膚から剥がします。これにより,皮膚 角層が除去できます。この操作には痛みは伴いません。
3. この操作を3回繰り返すことにより,角層の約80%は皮膚表面より除去 できます。剥がした皮膚部は一時的に赤くなりますが,痛み,痒みなどの 症状や血がでたり,皮膚がただれるなどの傷害はみられません。
4. 角層を剥がしたのち,24時間後に剥離した皮膚表面に患者HLAに結合 するペプチド溶液を塗布し,テープで固定・密封します。この部分は濡らさ ないようにします。
5. さらに24時間後に塗布部位をふき取り,ペプチドを除去します。
6. がんの進行状況にあわせて,この操作を一月に1回程度おこないます。

 この治療法では,注射針を使わないため痛みがなく,またペプチドを皮膚表面から浸透させるため,簡便かつ極めて安全な方法といえます。

<h1>経皮免疫療法による 悪性黒色腫 (メラノーマ;ほくろのがん)の治療</h1>

角層除去によるランゲルハンス細胞の変化とCTLの誘導

正常皮膚(図1)では、ランゲルハンス細胞はクラスT(),クラスU(△)抗原を発現している。角層除去皮膚(図2,図3)では、クラスT,U抗原を強発現し、B7やCD40といった活性化分子(○)を発現する。また、形態も樹状突起がへり、所属リンパ節へ移動し、CTLを誘導する。外来からの危険信号に対する生体防御反応と考えられる。

図1
図2
図3

2.経皮免疫療法の背景

 以下,経皮免疫療法がなぜ有効なのかについて,説明いたします。

 

悪性黒色腫(メラノーマ;ほくろのがん)とは?


 人間の皮膚にはメラニンという黒い色素を産生するメラノサイトという細胞があります。この細胞が悪性変化したものが悪性黒色腫です。一般的にはほくろのがんとも呼ばれます。
 日本人では20万-30万人に一人の割合で発症します。ふつうは,皮膚に黒いほくろのようなものができ,しだいにおおきくなり,転移して,患者に死をもたらすたいへん悪性度の高いがんです。日本人の患者の約半数では足のうら,てのひらにメラノーマができます。ですから,足のうら,てのひらのほくろは充分注意して様子をみる必要があります。
 これまであったほくろや今までなかった場所にあらたにできたほくろに,急におおきくなってきた,形がいびつになってきた,色が黒一色でなく赤や,青っぽいところもできてきた,表面から血が出てきた,盛り上がってきた,という変化が出現したら,要注意です。がんに移行した可能性が高いのです。
 皮膚は目で見ることのできる唯一の臓器ですから,ほくろがあれば,ときどき皮膚科専門医にほくろのがん検診をしてもらってください。検診そのものはみるだけです。また,静岡県皮膚科医会と浜松医科大学は協力して,毎年11月の初旬から中旬にかけて,浜松,静岡,沼津の保健所でほくろ無料検診を実施しています。新聞紙上等で実施日,実施場所を掲載いたしますので,ふるってご参加ください。

従来の治療法


 できてしまった悪性黒色腫にたいする従来の治療には、外科的切除、抗癌剤による化学療法、放射線療法、あるいはこれらを組み合わせた治療法があります。皮膚以外にがん細胞が転移していない場合は,外科的な切除で完全に治癒します。一方,がん細胞が最初に起こった部分(これを原発巣と呼びます)から遠く離れた体の部分に転移した場合,手術のみでは治療の効果が期待できません。抗癌剤、放射線によるこれら治療法も併せて行います。しかし,これら治療法はがん細胞のみならず正常な細胞も攻撃し,副作用も強いことが挙げられています。特に外科的切除の不能な例や、化学療法や放射線療法に抵抗する例では,5年間生存できる患者さんの割合(5年生存率)も10%以下で,大変たちがわるいのです。
 現在の医療ではこの進行期の悪性黒色腫に対する有効な治療がないため、世界で新しい治療の開発がいくつか試みられています。日本で実施できる治療はごく限られており、私達が患者さんに提示できるのが経皮免疫療法なのです(付録)