浜松医科大学精神神科は、大原健士郎教授により昭和52年に開設されました。大原教授は森田療法や社会精神医学に関する多くの業績をあげ、また、数多くの精神科医を育成し、東海地区の精神科医療の充実に大きな貢献を果たしました。大原教授は平成8年3月に退官し、同年4月からは私、森則夫に引き継がれ、現在に至っています。
私どもは精神科の診療・教育・研究の充実を図るため、積極的に外部からスタッフを招きました。これまでに次のような方々を招聘してまいりました。伊豫雅臣氏 (国立精神神経センターより招聘。現在、千葉大学精神医学講座教授)、武井教使氏 (Institute of Psychiatry (ロンドン)より招聘。現在、連合大学院小児発達学研究科教授)、松本英夫氏 (国立天竜病院より招聘。現在、東海大学精神医学講座教授)、三辺義雄氏 (石川県立高松病院より招聘。現在、金沢大学精神医学講座教授)、中村和彦氏 (麻布大学より招聘。現在、本学精神科准教授)。その他に、助教として招いた方も沢山いらっしゃいます。当科に着任後、誰もがその力を遺憾なく発揮してくれました。今日の当教室の高い診療水準と研究水準はここにあげた方々と、その指導を受けてきた教室員の努力の賜物です。
私どもの教育でもっとも力を注いできたのは、精神障害者への偏見の克服です。知識の習得は大事ですが、私どもが学生に望んだのは、他科に進んだ時、精神障害者を偏見なく診察してくれることでした。この方針は今も変わりありません。
研究面では、生物学的研究として、統合失調症、自閉症、物質依存を主な研究対象疾患とし、研究手法として、分子イメージング、臨床遺伝学、疫学、認知心理学、細胞生物学を用い、臨床研究と基礎研究の両面から疾患の本態に迫る体制で臨んでいます。また、当科は心理療法の教育と研究にも大きな力を注いでおり、生物学と心理学の両面に精通した精神科医療の担い手の育成に努めてきました。
当科には地域精神科医療への貢献という使命も課せられています。静岡県は約380万人の人口を抱えています。しかし、医育機関は浜松医科大学のみです。これに対し、例えば、北陸3県の人口を合計しても約310万人と静岡県より少ないのですが、医育機関は4校あります。また、浜松市の人口は約80万ですが、近隣の市町村と合併すると隣の山梨県の人口(約90万人)に匹敵します。つまり、静岡県全体の医療をひとつの医育機関でカバーするのは容易ならざる事業です。しかも、本学はいわゆる新設医科大学であるため、卒業生の数も十分ではありません。静岡県の医師不足の理由はここにあります。他科同様、精神科医の不足も深刻です。しかしながら、今や、静岡県の精神科医療はわが国の最高水準にあります(関連病院と静岡県の精神科医療を参照)。これには、精神科医1人ひとりの力量の大きさが関係しているでしょう。また、静岡県には、精神科医療の変革をサポートできるだけの経済力が備わっていることも関係しているでしょう。
私達は関連病院と静岡県で進めている精神科医療を全国のモデルにしたいと考えています。私達は多くの精神科医を求めています。精神科を志す動機はさまざまなので、色々な側面をもつ教室である方がよいと、私どもは考えています。例えば、研究をしたいという希望者がいます。研究よりは臨床をやりたいという者もいます。児童精神医学を希望する者もいれば、老人医療に関心のある者もいます。生物学的精神医学に興味がある者もいれば、それよりは心理学や心理療法に関心をもつ者もいます。当教室はどのような要望にも応えたいと願っています。どれもが精神医学にとって重要であり、いずれもが精神科医療の重要な構成単位だからです。 |