泌尿器科学教室の歴史と現況

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目次

 1.歴史
 2.主な研究


1. 歴史

 浜松医科大学医学部泌尿器科学教室は1977年4月に開講され、阿曽佳郎初代教授と藤田公生助教授が赴任した。その後5月に鈴木和雄助手、7月に田島 惇助手が加わり、同年11月に付属病院が開院した。
 阿曽教授は1987年4月に東大教授となり転任、その後日本泌尿器科学会理事長となり、現在は藤枝市立総合病院長から名誉院長として在職されている。2代目の河邉香月教授も1993年に東大教授に選出され、引退後は焼津市立病院院長として再び静岡県に戻り、現在は東京逓信病院の院長の職にある。また1993年から1994年から2003年3月までは藤田公生教授が歴任された。2003年4月現在は大園誠一郎教授のもとに、診療と教育ならびに研究に励もうとしている。

2. 主な研究

 副腎疾患
 薬物の腎毒性
  抗生物質の腎毒性
  免疫抑制薬の腎毒性
 腎移植
 尿路結石
  尿路結石の治療 (内視鏡手術も参照
  結石発作は気象に影響される
  MDCK細胞を長期間培養していると結石ができる
 尿路感染症
 排尿障害
 前立腺肥大 (内視鏡手術も参照
 腫瘍一般
 腎癌
  腎癌に対するフトラフールの有効性
  腎癌に対する免疫療法
 膀胱癌
  非浸潤性癌に対する内視鏡切除の成績の向上
 前立腺癌
  前立腺早期癌の問題
  前立腺癌は化学療法に反応する
 超音波診断
 内視鏡手術



副腎疾患

 日本における副腎外科は故市川篤二東大名誉教授によって切り拓かれた。このために、日本では泌尿器科医が副腎の手術をすることが多い。いつも腎の手術を行っているので、後腹膜腔の手術は手慣れていたのがその理由でもある。この伝統を受け継いだ阿曽佳郎は、東大で多数の副腎手術の経験をもっており、当大学でも積極的に手術を行い、αブロッカーに加えCaチャンネル阻害薬とATPが褐色細胞腫の術中血圧の管理に便利であることを麻酔科池田教授とともに確かめた。近年腹腔鏡手術が発達し、鈴木和雄はいちはやく副腎の腹腔鏡手術を手がけ、世界でも有数の経験者となった。
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薬物の腎毒性

 抗生物質の腎毒性

 腎毒性の強い抗生物質としてアミノ配糖体が知られているが、この物質は特に腎細胞においてlysosomeに蓄積し、myelin体を形成する。前者は in vitroでも起きる可逆的な反応であるが、後者は生体反応として生じてくる不可逆的な反応である。また、テトラサイクリン系薬物はミトコンドリアに親和性をもつが可逆的であり、血中濃度の下降とともに細胞内濃度も低下し、ミトコンドリアから離れていく。初期セフェム系のセファロリジンには腎毒性が見られたが、これもこのような細胞内小器官との親和性の高い物質であった。藤田公生は細胞の定量的なsubfraction法を試み、これらの関係を明らかにした。
 また、尿中逸脱酵素を腎障害の指標として、高齢者は抗生物質による腎障害を受けやすいこと、抗生物質の腎障害とシスプラチンの腎障害に相違があることなどを示した。
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 免疫抑制薬の腎毒性

 シクロスポリン(CsA)は移植腎の生着率を画期的に改善したが、腎血流量を低下させて腎障害を招くこともよく知られている。上田大介と麦谷荘一は、やはり同様の作用をもつとされるTacrolimus(FK506)を用いて、腎葉間動脈のレベルには変化がなく、糸球体輸入細動脈の攣縮によること、線溶系やセロトニン系が関与している可能性のあることを示した。石川晃はCsAを用いてこの原因の追究に取り組み、一連の実験から、糸球体の血流が減少、そのために傍糸球体細胞内に顆粒が増大していること、それにもかかわらず血中レニン、アルドステロンはあまり増加していないこと、このような一連の血管系の変化にはエンドセリンが重要な役割をしていること、および種々なβ受容体刺激薬およびCaチャネル阻害薬などがこの攣縮に拮抗し、腎障害を予防することを示した。
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腎移植

 1977年に浜松医科大学附属病院が開院したとき、静岡県下ではまだ腎移植が行われていなかった。阿曽佳郎初代教授は東大泌尿器科教室でわが国最初の長期移植腎生着例が出たときの病棟医長であり、県内でも移植が出来るようにという地元の要望に応えて、当教室はさっそく腎移植に取り組んだ。初期にはいろいろな苦労もあったが、隣県名古屋市の社会保険中京病院のお世話にもなり、順調な結果を得られるようになった。現在は200例を越える経験をもち、腎生着率もかなりよい成績を示している。
 当教室独自の業績としては、リンパ球の遠心除去法があげられる。よい免疫抑制薬のない頃、免疫担当細胞であるリンパ球を物理的に除去する目的で、胸管ドレイン法がStarzl、日本では中京病院で行われた。田島惇はより簡単な方法として、血液透析の際に一部の血液を遠心分離器の回路に誘導し、リンパ球を除去する方法を工夫した。これは予定された生体腎の移植前の治療としても、すでに発生した急性拒絶反応を抑制する治療としても行われ、効果をみせた。
 腹腔鏡下手術が侵襲の少ない手術方法として注目されているが、鈴木和雄は腎腫瘍に対して小切開を利用して腹腔鏡補助下に腎摘除術を行った経験から、これを生体腎摘除に用いてよい成績をあげている。
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尿路結石

 尿路結石は非常にポピュラーな疾患で、100人に4人くらいは尿路結石の経験があるといわれている。原因は不明な場合が多いが、高尿酸血症・上皮小体機能亢進・シスチン尿症などは結石の原因として有名である。
 浜松医大生化学第一の市山新教授は蓚酸代謝を専門としており、日本で初めて原発性高蓚酸尿症1型の患者の遺伝子変異を同定した。水野卓爾はこの教室で、問題の酵素APT/AGTに遺伝子変異を起こさせるとどのような異常が生じるか研究中である。
 結石の治療法は近年目覚ましく発展した。いわゆる手術はほとんど行われなくなり、外来で麻酔なしで出来る体外衝撃波結石破砕:ESWLが盛んに行われるようになった。藤田公生は東京で、鈴木和雄は焼津で、いち早くこの経験を重ねた。また内視鏡的手術として経皮的砕石術:PNLや経尿道的砕石術:TULが行われ、太田信隆はTULの名手と謳われた。
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結石発作は天候で誘発される

 結石発作の多いときは、発作を起こした患者が次々と外来にやってくることから、藤田公生はこれが天候と関係があるのではないかと佐久平で、後に東京で調査を行った。種々な因子が検討されたが、気圧の低いときや低下するとき、つまり、いわゆる低気圧の近づくときに結石発作の発生が多いことが分かった。気温に関しては、暑い季節は結石が出来やすいのでその影響のために分析がむずかしかったが、季節の影響をのぞいても暑い日には疝痛発作が増加する傾向がみられた。また冬には、とくに寒い日には発作が起きやすい傾向がうかがわれた。
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MDCK細胞による結石形成

 当大学病理学教室の内藤泰久助手(現在助教授)が、長い間放置していた腎尿細管細胞由来のMDCKの培養皿をある日見たら、結石のような塊が出来ていることに気づいた。相談を受けた大田原佳久と影山慎二が、これがリン酸Caであることを確認した。これは遠位尿細管細胞に特徴的な性質と考えられ、尿路結石の発生に関与する可能性があると、その機序を研究中である。
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尿路感染症

 尿路にカテーテルを留置した症例の尿路感染は難治性として知られている。経尿道的前立腺肥大の術後はカテーテルを留置するため、術前から留置を続けていた例はとくに、難治性の感染を持続する。藤田公生はこの問題に取り組み、抗菌薬の体内動態とくに前立腺への移行、感染の発生持続する要因とその対策、効率のよい抗菌薬の投与法などを検討した。それまでは静注点滴が常識になっていたのに対し、経口薬でも術後予防が十分に可能なことを示したことは特筆すべきであり、また術後感染は夏季に発生率が増加するという興味ある所見を発見、報告している。
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排尿障害

 河邉香月は以前に東大薬理学教室において腎性高血圧を研究しており、α-blockerの研究から排尿障害に取り組むようになった。前立腺組織におけるαアドレナリン受容体の分布とその特異性を検討し、また共同研究班を組織して種々なα遮断薬の臨床効果を検討した。
 影山慎二はそのもとで排尿障害の臨床研究を行った。尿失禁の治療法としてのコラーゲン局所注入を超音波断層監視下に行う方法は、確実な手段として高く評価された。現在影山慎二は膀胱平滑筋培養細胞を用いて、細胞内Ca濃度を指標とし、膀胱平滑筋作用と種々な薬物の効果を研究中である。
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前立腺肥大

 前立腺肥大症は高齢男性にほぼ必発の生理的変化ともいわれるが、排尿障害から腎不全を招くこともある。経尿道的前立腺切除術(TUR-P)がもっとも標準的な治療法とされているが、これは泌尿器科医の間でも習得するのが非常にむずかしい技術として有名だった。藤田公生は3,000例に近い経験に基づいて、1986年に「TUR-Pの手技」という本を著したが、これは技術習得のための独特な教則本として有名になり、その後に改訂版も発行され、中国語、スペイン語、英語にも翻訳された。
 TUR-Pが非常にむずかしい、特殊な技術であるために、より容易で患者さんにも侵襲の少ない方法が最近次々と開発され、マスメデイアにもときどき紹介されている。私たちもいろいろ検討しているが、TUR-Pを越える理想的な治療法はまだ見つかっていない。
 栗田豊は、特に最近は経直腸超音波断層法によって前立腺内腺と外腺が区別できるようになったので、種々検討を行い治療効果を比較した。前立腺肥大症は前立腺の腺組織の増殖によると考えられていたが、最近はα-1 アドレナリン受容体の増加の意義が強調される傾向にあり、これが前立腺肥大症の本態であるとまでいうひともいる。しかし栗田は、内線組織の増殖の目立つ例にはホルモン薬の方が効果があり、前立腺のなかで腺組織の比率の少ない例にはアドレナリン遮断薬が有効であることを明らかにした。さらに温熱療法も、後者に効果が高い傾向があった。
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腫瘍一般

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腎癌

 腎癌は現在においても抗癌薬の効かない癌として知られている。そのなかではFT系が有効である。他方ではときに自然退縮がみられることが昔から知られており、そこには免疫反応が関与しているのだろうといわれていた。そのような理由からインターフェロンが腎癌に対する薬として開発された。
 増田宏昭は当教室および関連施設の腎癌症例を種々な観点から分析し、予後因子を検討した。
 鈴木和雄は腹腔鏡下の補助を併用することによって、筋の切開を伴わない小切開からの手術で腎癌を摘除する方法を開発した。
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膀胱癌

 尿路乳頭腫症ということばがあるように、腎盂尿管および膀胱癌は多発することが多く、一連の疾患と考えられている。その原因としては多中心性に発生するのだから、再発防止は不可能であるという考え方が一般に強い。藤田公生はこれに疑問をもち、経尿道的腫瘍切除後の再発を減少させるための種々な努力を行い、それが可能なことを示した。切除の術前補助療法としてOK-432を腫瘍基部に局所注射し免疫反応を惹起させる方法、切除の際の播種着床を防ぐために切除終了時に抗癌薬を膀胱内に注入する方法などである。さらに治療のためにOK-432を注射しているうちに、切除前に粘膜下に非電解質液を注入すると切除が容易にでき、周囲の前癌病変の完全な切除が可能になること、経尿道的切除の際に閉鎖神経を刺激するために起きる膀胱穿孔を予防できることに気づいた。近年消化管内視鏡領域でも、生食を注入して切除をするなどの方法をとるようになった。
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前立腺癌

前立腺早期癌の問題
 前立腺癌は現在アメリカにおいて男性の癌の首位を占め、その診断と治療方針が大きな問題になっている。泌尿器科領域において重要な癌である。臨床的に癌の存在が予測されずに、他の理由で手術した標本から見つかった癌は偶発癌とされるが、藤田公生は国立病院共同研究を行い偶発癌が年齢とともに増加することを示した。また北京医科大学とStage A前立腺癌(偶発癌)の検討を行い、日本と中国で偶発癌の頻度に大きな差は認められないという結論を得た。これはアメリカと日本で臨床癌の頻度は大きく開いているが、解剖で発見される潜在癌の頻度はあまり変わらないという報告と同じ意味をもつものであり、現在中国における前立腺癌の頻度は腎癌や膀胱癌に比較すると少ないが、いずれ日本と同じように、欧米諸国を追いかけるかたちで増加するものと思われる。

前立腺癌は化学療法に反応する
 前立腺癌に対する抗男性ホルモン治療が有効であることを発見したHuggins がノーベル賞を受賞したことは有名であるが、これは癌に効く薬のない時代においては全く画期的なことであった。しかし前立腺癌に対する内分泌療法が当時としては著効を示したために前立腺癌は特殊な癌であるという印象が強くなり、他臓器の癌と比較して前立腺癌に対する化学療法に関する検討は遅れていた。藤田公生は、前立腺癌も癌であるから化学療法が有効であるはずであると考え、内分泌療法が無効になった再燃癌症例に化学療法を行ったところ、かなりの効果がみられた。これは化学療法が前立腺癌に有効であることを日本で最初に主張した論文であり、とくに低分化癌の治療には化学療法の併用が必要である。
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超音波診断

 超音波診断専門医制度が始まったとき、当大学でその資格をとったのは当教室の牛山知己ひとりであった。牛山知己は超音波診断を専門とし、とくに上皮小体の超音波診断の正確さは余人を寄せつけないところがある。移植後の腎不全の鑑別診断にも、超音波断層は非常に役に立った。
 栗田豊は前立腺超音波断層像において内腺(transition zone)を外腺から区別することによって、前立腺肥大および前立腺癌の鑑別診断、治療反応性など、診断精度を高められることを実証した(前立腺肥大を参照)。
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内視鏡手術

膀胱、前立腺、尿道  藤田公生は経尿道的内視鏡手術に長け、すでに述べたように経尿道的前立腺切除術の本を著し、また経尿道的膀胱腫瘍切除術の成績を向上させるための努力を種々行い、尿道狭窄の内視鏡手術を積極的に試み、そのための細径鏡を開発した。
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尿管鏡  阿曽佳郎は故高安久雄東大教授のもとで軟性尿管鏡の開発に尽力し、世界で最初の尿管鏡を紹介した。この開発は浜松医大においても継続され、内視鏡の改良とともに種々な手術操作が経尿道的に可能になった。太田信隆は、すでに述べたように経尿道的砕石術を得意とした。
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腹腔鏡手術  鈴木和雄は腹腔鏡手術に取り組み、種々な試みを積極的に行った。副腎疾患に対する腹腔鏡手術については 副腎の項で述べた。
 鈴木和雄が中心になって開発した方法に、最初に腹部に小切開をおき、炭酸ガス送気を行わない腹腔鏡補助手術法がある。これは腎を摘出するために最後に切開が必要なら、むしろ最初に切開をおいて手術に利用した方がよいという発想であるが、炭酸ガスを送入しないという利点があり、移植のための生体腎摘出にも利用されている。外科領域ではこの系統の手術を吊り上げ術という傾向がある。
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