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昆虫の翅の輝き
―森の上を飛び回る宝石たち−


 私たちヒトは視覚環境世界の中に生き、その中でも色覚は特に外界情報の重要な地位を占めています。他の動物種でも色覚の存在は広く知られており、ニワトリやキンギョなどの脊椎動物は勿論のこと、無脊椎動物のハエやザリガニにも色弁別能があることが行動学的・生理学的に知られています。  光を受容するとはどのような仕組みなのでしょうか?カンブリア紀の爆発と言われる生物多様性が始まったとされる5-6億年前の化石群を観察すると、すでに三葉虫に立派な複眼が存在していたことが分かります。また、カンブリア紀の生物に構造色*の起源が指摘されていることを考えあわせると、歴史的にも古いこれらの生物が、すでに色の世界を見ていたのではないかということが想像されます。  最近の我々のスゲハムシ(図1)やヤマトタマムシ(図2)の翅の研究などから、鞘翅のクチクラ層が、外側のクチクラ層(epicuticle)と内側のクチクラ層(exocuticle)から形成されており、epicuticleの多層薄膜構造が色を決定していることが分かりました。つまり、翅の反射スペクトルを測定した後にepicuticlを電子顕微鏡で観察し、層の厚みを測定した結果から薄層構造がつくる反射スペクトルを、コンピュータを使ってシミュレーションしてみると、実際の反射スペクトルと良く一致したのです。確認のために、epicuticleを光の入射側から外科的に剥離していくと色が消失しました。スゲハムシでは5層の構造、ヤマトタマムシでは18層の構造が色を決めているのです。あの宝石のような色は生物にとってどのような役割を果たしているのでしょうか?行動学的研究により、構造色がA.同種・異種間における個体識別などのコミュニケーションとして、B.生物が定位・移動する際の情報源として、またC.隠蔽色などの対捕食者戦略(擬態、威嚇や隠遁)として用いられている可能性が示され始めました。たとえば、ヤマトタマムシの雄は一定の距離から雌を判別して接近するという、同種の個体を識別してアプローチするためのシグナルとして構造色を用いています.
 ヒトは構造色を金属光沢のような感じとして意識することができます。あらためて私の環世界に従って色を見つめなおそうとすると、物理量で表わされるスペクトルでは記述できない色の表現が必要になってきます。文学書を開くとなんと色の表現の多いことでしょう。逆に言えば、この表現の数の多さは、実はヒトが莫大な数の色を区別し、弁別していることを表わしています。一口に色と言いますが、色の属性は何によって決まるのでしょうか?漆塗りの光沢になぜ人々は魅了されるのでしょうか?ダイヤモンドやルビー、そして真珠の輝きをなぜ求めるのでしょうか?それぞれの生物は外界の情報源の一つである光をどのように利用しているのでしょうか?光が織り成す外界と心(環世界)の研究の切り口になればと願って、生物のもつ構造色を追いかけています。

*構造色とは、色素による光の吸収ではなく、層状構造などの生物の表面構造が色を出すものを云います。色が表出する原理は、基本的には虹やシャボン玉の色と同じです。

→行動と構造色について少し詳しく


スゲハムシ
図1-1: スゲハムシ(Plateumaris sericea)は体長5mmほどの甲虫です。同種のなかで青から赤まであります。虹色のような並びをご覧ください.(写真提供:倉知正 博士)


スゲハムシ2
図1-2: スゲハムシの鞘翅の縦断面の電子顕微鏡像です。EPIと示されている白と黒に見える最外層が構造色をつくっています。




タマムシ 図2-1: タマムシの雌雄です。確かに玉虫の厨子にしたくなるような美しさですね。

タマムシ2 図2-2: ヤマトタマムシの鞘翅の縦断面の電子顕微鏡像です。EPIと示されている白と黒に見える最外層の18の層が構造色をつくっています。



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