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フナムシの生息環境と進化

 フナムシは甲殻類等脚目に属する節足動物です。等脚目の生物には深海から高山まで様々な生息地を持つ種がいて、その大きさや形態もさまざまです。また陸生の種を多く含んでおり、その代表的なものとしてダンゴムシ、ワラジムシなどが挙げられます。海岸の潮間帯に生息するフナムシは陸生、あるいは半陸生の生物として扱われることが多いのですが、その形態的・生理的な特徴は、他の陸生等脚目とは異なっていることが明らかになってきました。
 生物は海で誕生し、進化の過程においてその生息地を陸上へと広げていったと考えられています。生物が水中から陸上へと生活環境を変化させる上で最も大きく異なるのが水環境です。つまり陸上で生活する生物にとっては、いかにして体内からの水分の蒸発を防ぎ、効率よく水分を摂取するかが重要な課題となってきます。昆虫は体表面を厚いクチクラとワックスで覆い、気管と呼ばれる長い管を使ってガス交換することにより、体内からの水分の蒸発を少なく抑えています。昆虫に比べると陸生の等脚目は体表面からの水分の蒸発量が多く、その中でも特にフナムシは乾燥に弱い生物です。水分を全く摂取できない条件下においては高湿度の環境であっても十数時間で死んでしまいます。フナムシが生息する潮間帯というのは潮の満干により常に水環境が変化していて、フナムシにとっては危険な環境といえます。そのような環境でフナムシは、2対の後肢を揃え毛細管現象によって水を吸い上げることにより体を乾燥から守っています。水を吸い上げるための2本の脚には、互いに接する面に突出した表皮が直線上に並んで、水が通るための水路のようなものを形成しています(図1)。吸い上げられた水は腹部にある鰓に直接運ばれ、そこにためられた水は肛門から体内へ取り込まれます。
 水を欲する状態になっているフナムシに真水と海水の両方を与えると、フナムシは海水の方を好んで摂取します。そこでフナムシの体液の塩濃度を調べたところ、他の陸生等脚目よりも高く、海産のオオグソクムシや海水に近い値を示しました(図2)。つまりフナムシは陸上の生活に適応した形態を獲得していますが、体内の環境は海の中と同じだといえると思うのです。
 フナムシにとっては、海を認識してその近くにとどまることが生存のための重要な要素となっているのではないでしょうか。もしかするとフナムシが考える「海」(=生存に必要な環境)とは私たちが「海」だと認識しているものとは異なっているのかもしれません。フナムシが自分を取り巻く環境からどのような情報を得ることによって自分のいる場所を正しく認識し、「海」から離れずにいることができるのかということについて、フナムシの環世界を考えることによって理解していけたらと考えています。

フナムシ1

図1: フナムシの第6・7肢の電子顕微鏡写真。 フナムシは7対の脚のうち、最も後ろ側にある2対の脚を使って吸水行動を行います。この2本の脚の表面には他の脚には見られない特殊な列構造があり、この部分を通って水が鰓へと運ばれます(図A, C, D, E, 白矢印)。また、脚の先端近くの節にははっきりとした窪みの構造が見られ、水を列構造の部分まで吸い上げる役割をしています(図D, 黒矢印)。



フナムシ2

図2: 体内塩分濃度の比較。 フナムシは他の陸生等脚目と比べて体内の塩分濃度が高く、海水や海産の生物と近い値となっています。



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