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カメムシは帰巣の ために巣に匂いのマーキングをする
日本には数千種ほどが知られるカメムシの仲間ですが、その中には「子へ餌を運ぶ」という興味深い習性をもつ種類がいます。私たちが研究をしているベニツチカメムシParastrachia japonensisは、その特殊な行動が世界ではじめて発見された種です。
ベニツチカメムシは森にすむ2cm弱の美しいカメムシで、繁殖期に雌は地面に降りつもった落ち葉の下に小さな巣を作ります。幼虫が孵化すると、母親は餌となる植物の実を探しにクネクネと歩いて出かけます。通常、巣から何メートルも離れた場所でようやく実を見けることができるのですが、見つけた後、母親は巣の近くまで真っすぐに帰ることができます。私たちはこの行動が、視覚情報を中心とした経路統合★と呼ばれるナビゲーションの方法で行われることをこれまでに明らかにしてきました。
さて、経路統合によって巣の近くに到達した母親は、落ち葉の間にある1cmほどの小さな巣穴に間違えずに入らなければなりません。どのようにして自分の巣穴を見つけているのでしょうか?
触角に水性塗料を塗られたカメムシは、帰巣できなくなります。どうやら触角で感じる匂いが巣穴を見つけるために重要なようです。そこで巣の入り口を構成している巣材(落ち葉)や幼虫を他の雌親のものと実験的に交換して、どのような組み合わせだと自分の巣に帰れるかを調べてみました。すると、母親は幼虫が他個体のものでも、巣材が自分の巣のものであれば、そこを自分の巣と認識しました。つまり、母親カメムシは小さな自分の巣穴を見つけ出すため、家の入り口に自分の匂いのつけるという「マーキング」を行っていたのです。
アリやハチの仲間を代表として、昆虫には巣に帰るという能力を持つ多くの種類が存在していますが、まだまだそのナビゲーションの不思議は解き明かされていないことがたくさんあります。私たちはこの小さなカメムシの驚くようなナビ能力をさらに知りたいと思っています。
(用語説明)
経路統合:移動している動物が、自らの移動方向と距離をコンパスと距離計を使ってモニターして、それを計算することで、現在地から出発地点の位置情報を推測する方法
(文献)
Hironaka et al. (2007) Hierarchical use of chemical marking and path integration in the homing trip of a subsocial shield bug. Animal Behaviour 73: 739-745.
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