はじめに -----------------
材料部は先入観として滅菌が付き物であるが、実際には「洗浄に始まり、洗浄に終わる」と言われているほど洗浄がより深く関わる。 洗浄は、家庭生活における洗濯をはじめ、食器洗い、身体の清潔などに関連した密接なことから各種工業や農業分野などの産業面まで多くの場面で必要とされるプロセスである。 消毒や滅菌についてのテキストやガイドラインは出版されているが、医療における洗浄についての具体的な指導書は少ない。これは洗浄に対する観念、技術の向上意識が低い現状を表している。 今回、この機会をいただき、研修会などで知った洗浄についての基本的な考え方を伝達講習のつもりで「分かり易く」を特徴として述べさせていただく。 「洗浄のプロ」や「洗浄のセミプロ」クラスの人に役立たないものであるが、これまで洗浄にあまり関連してこなかった人には、洗浄についての知識を得るという基本的なレベルの内容であるので、参考にしていただければ幸いである。
1)滅菌における洗浄の意義
洗浄の目的は、1)目に見える汚れを取り除くこと。2)目に見えない汚れを取り除くこと。3)できるだけ微生物を取り除く。の3点である。
滅菌とは、全ての微生物を死滅させることであり、滅菌法とは、理論的に微生物を無限に0(ゼロ)に近づける方法である。 滅菌の基準を示す指標にISO(国際標準化機構)の「無菌性保証水準(SAL)」がある。現在ISOで採用されているSALは10-6である。これは、滅菌前の微生物存在確率を1.0とした時に、滅菌後のそれを10-6ということである。100万個の菌を培養して1個の菌が残る確率という表現の方が理解いただけると思う。ここで、滅菌の考え方には下記の図がよく用いられる。
2)洗浄の基本
洗浄の三要素は、水・洗剤・機械的な力である。洗浄パラメーターで要求される洗浄効果は、化学薬剤による効果(洗剤・温度・水質)と機械的運動による効果を合わせた総合的な効果によって達成できる。
洗浄ということを最も簡単に表現すると、「物に密着した汚染物質を洗浄液中に引き離し、再び付着しないように除去すること」である。
汚れはナゼ落ちるのか。
汚れが落ちる仕組み(図)は、洗剤が汚れにしみ込んでいき、洗剤の作用で汚れは離れやすくなる。
さらに“こする”などの手や洗浄機のエネルギーにより剥離し、汚れも細かくなる。洗浄液に移った汚れは「ミセル」という汚れを包み込んだ状態になって洗浄液中に保たれる。このミセルはすすぎで洗い流される。これらの過程が全部統合されたものが“洗う”ということである。
洗浄の基本は最初に水で、水の性質によって、汚れの落ち方や、泡立ちが弱くなることがある。カルシウム、マグネシウム、鉄分などが多く含まれているのが硬水で、少ないのが軟水である。水の硬度は地理的な条件で左右される。温泉で石鹸やシャンプーの泡立ちがいつもより悪くなるのは、温泉がいろいろな不純物を含んでいる硬水のためである。硬水は洗浄能力やすすぎの低下、器材への付着、器械のトラブルの原因や洗浄剤の作用を妨げる可能性がある。軟水の方が洗剤は溶けやすく汚れも良く落ちるので洗浄に適している。水質(硬度)によって洗浄能力や洗剤の量を左右するため調査する必要がある。
洗浄温度は30〜50℃が適温である。冷水は血液を取り除くには良いが20℃以下では汚れ落ちがあまり良くない。逆に、温度が高いと洗浄物を傷め、蛋白質系を凝固させる。
この「洗浄率のモデル曲線」というグラフは1分間に20%の汚れが除去されるという規則に従うものである。−dC/dt=kC(C:濃度、t:時間、k:速度定数、d:微分
)これは洗浄実験の理想曲線である。洗浄率が100%近くに達する洗浄は一般的ではない。実際にはそうそううまくいくものでない。一般に汚れが均一ということは有り得ない。
落ちやすい汚れは洗浄の初期に落ちてしまい、落ちにくい汚れは頑固に吸着したままである。
しかし、結果的には連続的に汚れの除去が進んでいく事になる。いろいろな説があるが洗浄時間は通常10分〜15分である。
そして、すすぎはオーバーフロー方式より溜めすすぎ3回の方が効果的である。洗浄時間とすすぎ回数は、清浄度試験を行い、
最適洗浄条件に設定することで節水や器械の処理能力を上げることが可能となる。
3)洗浄剤について
洗浄剤は、洗浄面から固形・液体の汚れを移動させ、取り除き、分散させることができる物質である。ここでは洗浄剤の成分やその働きについて説明させていただく。
洗浄剤の作用には、洗浄物によくしみ込んで水にぬらす浸透作用、油を小さな粒にして水に溶かす乳化作用、
水に溶けない細かな汚れを水の中に散らばらせる分散作用、溶けた汚れを再び洗浄物に付かないようにする再汚染防止作用、分散された汚れを泡が吸着して、すすぎの時に流れ去る泡立ちがある。
洗浄剤の主な構成は、界面活性力、化学反応力、酵素力からなっている。どのような洗浄力を発揮するのかを以下に述べる。
界面活性剤は表面張力を失わせ、本来なじまない水と油をなじませる役割がある。
固体や液体の境目には、なるべく表面積を小さくしようとする力(表面張力)があり、表面張力が強いと浸透性、湿潤力に欠けるが、界面活性剤が表面張力を弱め、浸透性を高める。
そして、非水溶性のもの(油脂類等)を可溶化させる働きをする。
石鹸のように自然の油脂を原料にして作られた界面活性剤と、洗浄剤のように主に石油を原料にして化学合成によって作られた合成界面活性剤がある。環境問題等のことを考慮すると石鹸はうすまると、界面活性がなくなり排水の中では働かないが、洗浄剤の界面活性剤は、微生物によって分解されにくいので河川に流れ込むと生き物に悪影響を与える。
ちなみに本学では、原液ではなく希釈してあればB排水で良く、「排水は流すべきところに流す」ということ心がければ特に問題ない。しかし、洗浄剤の種類よりも、その使用量を減らすことが重要だということがよく言われる。
水素イオン濃度(PH)には0−14までのスケールがある。PH8はPH7に比べて10倍のアルカリ度があり、PH9はPH7に比べて100倍のアルカリ度がある。
アルカリビルダーが動植物油脂の溶解(ケン化)、蛋白や炭水化物等の高分子有機物の溶解(加水分解)をして汚れを化学的に分解除去させる働きがある。
しかし、PHの数値が大きいアルカリ性の洗浄剤は、器具に破損の原因やシミをつけ、PHの数値が小さい酸性の洗浄剤は、表層に穴状の腐食をもたらすことがある。いずれにしてもPHは器具の寿命を左右するものである。
酵素系洗剤は、アルカリ性の洗浄剤に比べ器材に対してあまり影響がないことから多種の商品が販売されている。洗浄に使用される酵素は以下のような種類がある。
医療用の洗浄剤に、よく使用されているのものが「プロテアーゼ」である。
酵素名 |
分解基質 |
洗浄対象物 |
プロテアーゼ | 蛋白質 | 血液・卵白・肉汁等の蛋白汚染 |
アミラーゼ | 澱粉・炭水化物 | 米粒・糊・その他澱粉汚染 |
リパーゼ | 油脂 | 動植物性油脂系汚染物 |
ペプチナーゼ | ペクチン | ジャム・果汁の汚染物 |
酵素系洗浄剤の効果を左右する因子には、@酵素の含有量(活性値)A反応至適温度(分解に最適な温度)B反応至適PH(分解に最適なPH)C基質特異性(分解する相手を選ぶ)がある。
使用時の誤った選択により名ばかりの酵素系洗浄剤にならない工夫が必要である。
洗浄剤の作用は、目的に応じて効果的に働くように組成され、それぞれの物質が相乗的に働き洗浄を行うものである。
洗浄剤の選定では、汚染物の除去能力および器材のダメージ抑制などを考えて選ぶ必要がある。また、ハード(洗浄機および用手洗浄)機器に問題を生じない物を選ばなければならない。
当然、環境への配慮も必要である。
これらを踏まえて、希釈率、PH、主成分、容量、価格という机上分析と、泡立ち、臭い、洗浄音、洗浄効果などの試験を十分検討する必要がある。その際は、洗浄剤に関連する事項に関して、全く異なる2側面から情報を収集し、その上で判断を行って行くべきで洗浄剤の情報の内容が偏らない事も大切である。
4)洗浄の方法
洗浄のステップは基本的には@仕分け
A予洗 B洗浄 Cすすぎ D潤滑剤 E乾燥・排水という6つの段階がある。
医療現場には複雑な器械・器具が多いため仕分けをする必要がある。器材の材質、微細な器具、機械洗浄できる物できない物など器械の特性により洗浄剤や洗浄方法が異なるので分類を行わなければならない。
また、洗浄作業の基本は「分解」であり、全表面を洗浄できるように分解できるものは分解してセットしなければならない。そのためには複雑な器械・器具(なかには水に漬けられない物もある)等は、「洗浄(分解)マニュアル」を知っておくか、不明の場合は、器械・器具メーカーに問い合わせする必要がある。さらに、再生器材の購入時には、「その材質・分解方法・洗浄方法・消毒方法・滅菌方法・その他(材質・器材との影響性など)」をよく精査して購入することと、熱処理(湿熱消毒・蒸気滅菌)を優先した器材の選定を優先していただくことを留意していただきたい。
汚れのひどい物や内腔のある器材は予備洗浄を行う必要がある。予備洗浄用スプレーは、器具から血液、脂肪などの汚れを分解して浮かせておくことが可能で、休日のおける洗浄業務対策や再生器材の一次消毒廃止に有効である。
内腔のある器材は、洗浄前に浸漬することで汚れが落ち易くなる。
洗浄方法は手洗い洗浄、浸漬系洗浄、超音波洗浄、ジェット系洗浄、加熱式洗浄がある。
現在は、院内感染防止対策のため再生器材の一次処理をウォッシャーディスインフェクター(熱水消毒・洗浄装置)などにより除染しているため、使用現場での洗浄作業は殆どない。
洗浄の方法は大きく2つの種類がある。1つは、手を用いる用手洗浄法、もう1つは、機械による洗浄である。洗浄の特徴・注意点については次項の洗浄各論にて説明させていただく。
すすぎは、浮き出した汚染物と残留した洗浄剤を流水による水洗いによって流し出すのが目的で、十分な水量と時間を必要とする。
仕上げをする最後のすすぎ洗いの水質は、パイロジェンやイオン類を付着させないためRO水(純水・蒸留水・処理水)でミネラル除去しなければならない。しかし、RO水装置を停止させておくと膜や水流路に細菌が増殖するので、クエン酸洗浄やホルマリン溶液で薬洗を行ったり、タンクを空にしたりするなどRO水の管理が重要である。
器具によっては、錆に対しての保護と機能の維持、細菌の成長を少なくするために潤滑剤処理を毎回行う。
洗浄後は、濡れていると細菌が増殖するので、すぐに十分乾燥させることが大切である。そして、排水は水質汚濁防止のため滅菌または希釈して流すことが肝要である。
下水道法上60℃以上の排水を流すことは禁止されているため注意しなければならない。
洗浄各論 ----用手洗浄法
用手洗浄方法には、ブラッシング(こすり洗い)と浸漬(漬けおき)洗浄がある。いずれの作業においても従事者の暴露防止対策(微生物・薬液・その他)が、第一条件となる。 マスク・ゴーグルまたはシールド付きマスク・キャップ・防水性エプロンまたは防水性ガウン・長靴またはシューカバー(シューカバーは落下物には効果ない)等の防護具を着用することが重要である。いずれの処理方法も、器材はしっかりすすぎ、溶液と汚染物の付着がない事と器材へのダメージを確認しなければならない。
ブラッシング洗浄
1)目視できる汚染物に、即座に直接アタックできる。少量の洗浄剤で作業が可能。
2)対象物に損傷を与えることが少ない。(加減ができる・変化が確認できる)
3)機械的洗浄との相乗効果が期待できる。(内視鏡など)
4)注意点は、鋭利な物による傷害や手荒れの原因となる。感染リスクが高いこと。研磨剤(クレンザー)ワイヤーブラシ、スチールウール、スコッチブライトを使用しないことである。
浸漬洗浄
1)誰でも行える、簡単な処理方法である。
従事者は処理中に、他の作業が行える。
2)従事者による除去能力の差は少ない。(改善策が計画しやすい)
3)溶液の浸透している箇所であれば、洗浄力は期待できる。
4)注意点は、器具に気泡が出来ないように浸漬すること。浸けておく時間・濃度を一定に管理すること。溶液の種類を明記して洗浄力がなくなる前に使用液の交換をすることである。
洗浄各論 ----機械洗浄法
機械洗浄法には、超音波洗浄、噴射式洗浄、加熱式洗浄がある。人によって洗浄が異なる用手洗浄より、一定の洗浄効果を保つことができるが、いずれにおいても、洗浄前の器材のセッティング(分解・分類)が重要である。
超音波洗浄
1)手の届かない隙間や溝まで汚れを除去できる。
2)泡をつけて超音波でたたき壊す時に汚れもとばす。
器具を水面下に沈めて洗浄する。
3)注意点はネジをゆるめたり、器具の接着部を壊す可能性がある。ゴムや布類は効果がない。
噴射式・加熱式洗浄(ウォッシャーディスインフェクター)
1)水の衝突による衝撃で汚れを落す。(付着物のウォッシュアウト)
2)器具表面は噴き出す水が当たるようにする。
3)耐熱性の器具は熱水消毒を行う。
低温(70℃〜90℃)殺菌洗浄
1)パスツリゼーションという消毒機能を持っている。
チューブ洗浄
1)内腔のある器材やチューブ類の内部を通水することができる。
システムカート洗浄
1)搬送用台車であるシステムカートの洗浄・消毒・乾燥まで行うことができる。
5)洗浄効果の確認
本当に洗浄できているのか?洗浄方法はこれでよいのだろうか?その洗浄作業が本当に効果的な処置なのか?…洗浄が、滅菌・消毒を行う第一歩であることは既に述べたが、
その洗浄を確認する方法はさまざまであるが、滅菌のように基準もなく、消毒のように目標とした微生物にアタックしているか否かを、+・−で判定する方法もない。
なぜならば、複雑に存在する「汚れ」であり、何をターゲットとするのか、どんな箇所に付着しているのか、どれくらいの時間が経過した汚染なのか、他の薬剤との変性はないのか、などなど指標を作ることが困難であるからと考える。
さまざまな方法で洗浄処理後の清浄度を確認する報告があるが、現時点における「医療器材の洗浄効果の確認方法」を紹介する。
よく使う簡単な手法が色素染色法である。蛋白質に定量的に結合し染め出されるもので、汚れの残渣部分を目視で確認するものである。また、色素染色法を利用して内腔のある管状用器具の内部残渣を確認する方法もある。
テストソイルを用いる方法は、擬似血液、脂肪などを器具やガラス板に付着させ目視において、どの程度除去されたかを確認する方法である。最近では、滅菌インジケーターのように、毎日・毎回の清浄度のチェックを行える物もあり、洗浄剤の温度・時間の設定、消毒薬処理後の洗浄の障害、洗浄装置が実際に機能を果たしているかを評価するために用いられている。
ATP測定法とは、血液を含む全ての生物が持っているアデノシン三燐酸の量を測定する方法で、潜血反応法は、血液中ヘモグロビンを対象とする試験方法である。
すすぎが十分か確認するために、すすぎ水の中の洗浄剤の残渣を調査する方法がある。溜めすすぎ3回の工程中にすすぎ水を採取して、PHメーターや界面活性剤の残留を測定する。
しかし、これらの確認方法で「色が付いていなかった」「検出感度限界以下になった」からと言って、洗浄の質を保証する基準は今のところ存在しない。ただし、現状で可能な限りの確認方法を実施して「洗浄処理」を遂行しなければならないことは、器材の質を保証する(もしくは、向上させる)立場としては当然の作業と考える。
なぜなら、残留反応を認めた器材は、購入時には少なくともこれらの確認方法で反応を認める汚染物は付着していなかった事を勘案すると・・・つまり、長年の再生処理の中で、使用器材の質が低下していることにほかならないからである。
そのため、定期的な洗浄の確認試験は重要で、よりよい洗浄システムを確立するためにも必須である
さらに、大事な事は、洗浄後の器材は汚染度をチェックして、汚れが残っていたら、もう一度マニュアル洗浄を行うことである。汚染の除去は化学変化を利用する。シミや着色には非イオン界面活性剤・脂肪系炭化水素をスプレーして拭き取り、錆や酸化皮膜には酸性洗浄剤に浸漬して汚れを浮かせてから水洗いをするなど器材へのダメージを与えない方法を選択する。決して、クレンザーや金属ブラシを使用してはいけない。
バリデーションプロセスは、購入品の仕様の検討、検査の委託、性能の質(温度に関する検査・微生物に関する検査・洗浄効果に関する検査・洗浄物の乾燥状態の検査)がある。このようなシステムを確立しなければ、滅菌の質を保証することはできないのである。
6)洗浄の有効性
洗浄が先か?消毒が先か?…再生器材の一次処理において、優先させる行程は「洗浄(有機物・汚れの除去)」である。安全な滅菌器材の供給を考えるうえでも、汚染物の除去を行わなければ、滅菌効果を期待することはできない。現在では標準予防策(Standard
Precautions)を遵守して一部のものを除き、汚染器械・器具をそのままウォッシャーディスインフェクターに入れることが有効な使用法である。最終清浄度レベルを「滅菌」とする器械・器具は、ディスインフェクションを行うならば前行程で消毒は必要としない。
流水での水洗いは微生物を洗い流し、付着血液を溶血、希釈する点から、洗浄後に消毒剤を使用することなく、80%(103〜105)の微生物が除去できると報告*されている。また、多忙な看護業務の中では、損傷していない皮膚の場合、触っても安全である無機質な再生器材は、自ずと軽視されやすい物であるが、汚染物が変性すると除去しにくくなるため、使用後は速やかに洗浄することが重要である。
また、感染リスクに応じた対策(Spaulding分類
表)別に、使用目的にあったレベル(滅菌・消毒・洗浄)まで処理する方法の基本も洗浄である。「洗浄をしっかり行えば、その器材に付着している細菌は確実に減少する」。これらの事を持って、臨床現場での再生器材の処理方法を見直していただくキッカケとなればと思う。未洗浄で器具の取扱いを、決してしないことが肝要である。
繰り返すが、確実な滅菌のためには、十二分に洗浄し汚れを確実に落さなければならない。また、不十分な乾燥は、消毒効果の低減や二次生成物を生成する可能性があるので確実な殺菌効果が期待できない。
表 Spauldingによる汚染危険度分類および医療機器類
クリティカル |
滅菌 |
直接体内に接触または導入するもの |
手術器具、観血的な処置に使用される器具 |
セミクリティカル |
高レベル消毒 |
粘膜に接するもの |
喉頭鏡ブレード、内視鏡、人工呼吸器の関連物品 |
セミクリティカル |
中レベル消毒 |
芽胞による汚染では危険のないもの |
バイトブロック |
ノンクリティカル |
低レベル消毒 |
傷のない正常な皮膚に接触するもの |
酸素マスク、膿盆 |
ノンクリティカル |
洗浄および乾燥 |
皮膚に直接触れないもの |
床、ベッド、点滴台 |
* 汚れ、血液、粘膜、組織は消毒作用の妨げになる。物品は消毒する前に徹底的に清浄化しなければならない。※TRAINING MANUAL FOR CENTRAL SERVICE TECHNICIANS/American society for
Healthcare Service Professionals of the American Hospital
Association
洗浄剤で床や他の水平な表面を洗浄すると、微生物の80%が除去され、消毒薬を使用すると、90〜99%が死滅するか除去される。※CHEMICAL DISINFECTION IN HOSPITALS/G.A.J.Ayliffe,D.Coates and
P.N.Hoffman
十分に洗浄されていれば、健康な皮膚に触っても感染はおこしません。※ユニバーサルプレコーション/安全教育分科会
洗浄は流水下で行うことが原則です。流水下で洗浄することにより、溶血して、かつ希釈するから洗浄後消毒剤を使う必要がなく、損傷していない皮膚の場合、触っても安全。洗浄をするだけで10の3乗から10の5乗の微生物を除去することができる。※B型肝炎ガイドライン/厚生省医薬安全局安全対策課
流水下で丹念に洗浄することにより、HBVおよびHCVの感染をより完全に除去できる。これは、肝炎ウイルスに限らず、ウイルスで汚染されたときの最も基本的な処置方法である。※ウイルス肝炎感染対策ガイドライン/厚生省保健医療局
7)感染防止対策
院内感染防止対策上、この「洗浄」は、伝播と拡散を防止し、人を介しての接触感染防止の第一予防策「手洗いの遂行」と、同格の重要性がある。また、器材保守の点においても有効と考えられる。
材料部での洗浄エリアにおける感染防御対策として注意することを以下にまとめる。
@ニトリル手袋にて返却物品を扱う。(ビニールグローブは、手荒れを防ぐために30分以内の使用とする。)
A汚染物を置く場所を指定する。
B洗浄時は飛沫を浴びない工夫をする。(床から30cmは、床だと認識して作業する。)
C長手袋、エプロン、マスク、ガウン、ゴーグルなど防護具を着用する。
D洗浄していない器材に素手で触らない。
逆に清潔な器具は清潔な手で扱う。臨床現場でも洗浄、消毒した器材を放置すると再汚染されるので、手技手法に注意する必要がある。さらに改訂しなければならない項目も多々あると思うが、今後の課題としたい。
医療現場に従事する者への感染防止と作業環境を考えるポイントは、作業者、器材、環境の3つの安全性を考慮することである。『床は汚れていて無菌にはならない』、『手に傷があったら絆創膏の使用』のように、いずれも難しく考えないで、「Simple is BEST」にすることが大切である。
まとめ
確実な洗浄、完全な滅菌、適切な包装、適切な滅菌方法、正しい保管があって始めて滅菌が保証される。今回は、「洗浄」について取り上げたが、滅菌の質の保証には使用現場での保管に到る全てが関連している。
洗浄の基本的な考え方としては、1)洗浄できないものは消毒も滅菌もできない。滅菌するにしても消毒するにしても、まず目で見て汚染物の付着がないように綺麗に洗うこと。2)洗浄、消毒、滅菌など清浄度グレード(Spaulding分類)を理解すること。3)汚染の付着状態(何時、何処で、何が)を把握する。4)物理的、科学的根拠に基づく汚染除去方法を理解する。5)汚染物の拡散防止、医療従事者の感染防止方法を理解することである。標準予防策(Standard
Precautions)の基本的な考え方が、この領域では強く求められていると考える。
医療従事者として、再生器材の臨床での保管状況、使用方法および処理方法・感染コントロール・作業の方針・手順・安全性を含んだ教育および検討を行っていただき、この資料にボリュームを付けていただければ幸である。